迫りくる危機:介護/医療x外国人材が日本の未来を左右する
序章:日本の介護・医療x外国人材の「待ったなし」の現実
日本の介護・医療業界は、今、人手不足の瀬戸際に立たされています。これは単なる採用難ではなく、社会構造の根本的な矛盾から生じた「国家的な危機」です。内閣府の将来推計が示す通り、2070年には生産年齢人口わずか1.3人が高齢者1人を支えるという、極限状態が予見されています。国内人材の確保が極めて困難になる中、外国人材の受け入れは、もはや事業継続のための「命綱」であり、医療・介護の現場は、彼らなくしては成立しない状況に追い込まれています。
具体的にどのように彼らを受け入れるべきなのか、「即戦力採用の主流!特定技能「介護」の基本条件と受け入れまでのステップを徹底解説」を参照ください。
この喫緊の課題に対し、企業経営者は、外国人材を「労働力」としてのみ捉える古い意識を捨て、彼らを「共生していく仲間」として迎え入れる戦略的な転換が求められています。本稿では、介護/医療x外国人材の現状を深く分析し、企業が直面する構造的な課題、そして2025年以降の制度変化を見据えた、生き残りのための具体的な戦略を提示します。
第一の壁:構造的人手不足と外国人材への深刻な依存
日本人がいなくなる医療・介護現場の崩壊
八王子市で病院を運営する医療法人社団光生会「平川病院」の事例は、日本の医療現場が直面する深刻な現実を映し出しています。かつては地域からの応募があった日本人看護補助者の採用は年々困難になり、募集を出しても応募が全く集まらない状況が続いています。その結果、現在では看護補助業務は外国人材に頼らざるを得ない状況となっており、研精会の例でも、介護職員450名中100名超(20%以上)が外国人スタッフであり、彼らなしでは現場が成立しないと認識されています。
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者層へと移行する中で、介護サービスへの需要は今後も高まる一方であり、2040年には介護職員が約57万人不足するという予測は、経営層にとって無視できない数字です。
外国人材は、この危機的状況を緩和する即戦力として期待されています。特に若年層の労働力として、体力が必要な介護業務や、夜勤・休日勤務などのシフトに対応できる柔軟性から、施設運営の安定化に大きく貢献しています。
国際競争下で「選ばれる日本」であり続けるために
現在、日本で働く外国人労働者数は205万人を超え、介護分野の特定技能在留者数も増加しています。しかし、日本は、外国人材を巡る国際的な競争に晒されています。
昨今の急激な円安や、日本の給与水準が上がらない状況は、外国人材にとって日本で働く魅力を大きく低下させています。アジア諸国でも高度スキル労働者の需要が高まる中、企業は外国人材確保のための競争激化に直面しています。
この競争を勝ち抜くには、日本人スタッフと同等以上の待遇を設定し、働く全ての職員が魅力を感じる職場環境を構築することが不可欠です。研精会が「これからの日本で共生していく仲間」として外国人労働者を捉え、住居手配、生活支援、日本語教育サポートなど、手厚いサポートを実施しているのは、まさに「選ばれる施設」になるための戦略的投資と言えます。
「人手不足を解消するだけじゃない!外国人スタッフがもたらす職場活性化と国際交流のメリット」も併せて見てください。
第二の壁:制度変革の波と特定技能シフトの裏側
「技能実習」の終焉と「育成就労制度」の登場
外国人材受け入れの主要な枠組みは、大きな転換期を迎えています。かつて多くの外国人労働者が利用していた技能実習制度は、「国際貢献」という建前とは裏腹に、実態として日本の人手不足を補う役割を果たしてきました。しかし、高額な紹介手数料や低賃金、劣悪な環境といった人権リスクが国際的に批判されてきました。平川病院の現場担当者も、技能実習制度下では転職ができないにもかかわらず、現場の介護業務の過酷さから途中で退職してしまうケースが多いと指摘しています。
こうした背景を受け、2019年に創設されたのが、労働者として受け入れることを目的とした特定技能制度です。平川病院でも、採用方針を特定技能へほぼ一本化しつつあります。
さらに、2024年6月には、技能実習制度に代わる新制度として「育成就労制度」が可決・成立しました 。この新制度は、人材育成と人権保障の両立を目指しており、公布日(令和6年6月21日)から3年以内に施行される予定です。介護/医療x外国人材戦略を練る企業にとって、この法改正は、採用・育成・管理体制の根本的な見直しを迫るものです。
弊社がこの制度について独自にまとめてみました:技能実習制度は「育成就労制度」へ:廃止・移行に伴う介護施設が知っておくべき変更点
即戦力を永続的に確保するための資格の壁
介護分野では、EPA、在留資格「介護」、技能実習、特定技能という4つの在留資格が存在します。このうち、最も専門性が高く、在留期間の更新制限がなく、家族帯同も可能となるのは、介護福祉士国家資格の保有者のみが得られる在留資格「介護」です。
外国人労働者が特定技能ビザから「介護ビザ」へとステップアップすることは、日本でのキャリア形成の目標となります。しかし、この国家試験は、日本語能力(N1~N2レベルが目安)、内容ともに難易度が高く、外国人合格者が少数に留まっている点が、介護/医療現場にとって最大の悩みです。国家試験は年に1回のみの開催であり、5年以内に資格を取得できない場合、特定技能ビザが失効し帰国せざるを得なくなります。
企業側は、この資格取得の壁を乗り越えるため、厚生労働省が提供する「にほんごをまなぼう」(N3程度合格や特定技能評価試験対策)、多言語対応の学習テキストや専門用語集、一問一答形式の教材 などを積極的に活用した、戦略的な学習支援体制を構築する必要があります。
EPA介護福祉士候補者の受け入れから育成計画などは、「基礎からわかるEPA介護福祉士候補者の受け入れ:4年間の育成計画とJICWELSの役割」を参照ください。
第三の壁:現場が直面するマネジメントと定着の死角
「経験者採用」による育成コストの最小化
介護/医療現場で外国人材を成功裏に活用するには、採用段階での見極めが重要です。平川病院では、日本語力と介護経験を重視した採用を進めています。特に、実務経験を持つ人材(例:インドネシア人材)を採用することで、基本的な支援技術が身についているため、育成コストを最小化し、病院特有のルールや業務フローの指導に集中できるというメリットがあります。
ただ、外国人材には採用コストもある程度かかりますので、こちらも考慮する必要があります。
また、すでに働いているスタッフからの紹介(リファラル採用)も、国内在住で語学力の高い人材を確保する有効な手段として機能しています。
言葉の壁と国籍を超えたチームマネジメント
多国籍な職場環境(中国、ベトナム、インドネシア、ミャンマーなど)において、国籍間の大きなトラブルは発生しにくい一方で、コミュニケーションの問題は依然として大きな課題です。
医療現場では、患者の状態を正確に把握するために細やかなコミュニケーションが必須であり、日本語を習得したばかりの外国人スタッフにとって、医療の専門用語や日本語特有のニュアンス、方言などを理解することは困難です。言葉の行き違いによるミスのリスクは、医療現場において特に重大です。
平川病院では、翻訳機器の精度に課題を感じ、最終的に「大事なことはゆっくり、簡単な日本語でコミュニケーションを取る」という受け入れ側の配慮を徹底しています。また、日本語習得のスピードには国籍差があり、インドネシアの方が比較的早い傾向にある一方、ベトナムの方は発音の違いで苦労する印象があるとされています。
離職を防ぐための「人権保護」と柔軟な対応
外国人スタッフの離職率は、国内の他の医療・介護施設で20~30%に達する施設もあるほど深刻です。離職の原因は、給与や労働時間への不満、人間関係、コミュニケーションのストレスなど多岐にわたります。
離職原因(人間関係・給与)を防ぐための支援策として、マニュアルを作成することも推奨されていますので、「外国人介護士の定着率向上マニュアル:離職原因(人間関係・給与)を防ぐための支援策」で別途記事を書いています。
【収入確保と法令遵守】 外国人スタッフの中には、収入を増やすために長時間労働や夜勤を希望する声が多くあります。しかし、外国人労働者の長時間労働は強制労働につながる人権リスクとして国際的にも注視されており、企業は法令遵守を徹底しなければなりません。研精会は、長時間労働はさせない一方で、夜勤手当により手取りが増えるよう、日本語能力(N2程度)とスキルを見極めた上で、なるべく早く夜勤を任せられるよう育成に注力しています。
【定着のための柔軟な支援】 定着率向上のためには、生活やキャリアへの手厚いサポートが不可欠です。平川病院では、地方出身者がコミュニティの少なさから感じるストレスを軽減するため、帰国休暇の取得期間を柔軟に延長する対応を取っています。また、研精会では、グループ内での柔軟な転職・移動に対応することで離職を防いでいます。これらの事例は、外国人スタッフを「単なる人員」ではなく、「日本で共生していく仲間」として捉える姿勢が、定着に直結していることを示しています。
第四の壁:未来への戦略的投資—介護/医療x外国人材の共生条件
2025年以降:訪問介護の解禁とルール緩和
人材不足が深刻化する中、政府は外国人材の受け入れルールを戦略的に緩和しています。特に経営層が注目すべきは、2024年度の介護報酬改定で実現した、EPAや技能実習生を就労開始直後から人員配置基準に算入できるようになった点です。これにより、受け入れ開始から6ヶ月経過を待つ必要がなくなり、現場の負担が大幅に軽減されます。
さらに、介護/医療x外国人材の活用範囲を広げる最大の変化が、2025年4月(特定技能は同年4月中予定)に訪れます。これまで介護福祉士資格を持つ者(在留資格「介護」など)に限定されていた訪問介護サービスへの従事が、技能実習生および特定技能外国人にも可能となるのです。
訪問介護サービスの解禁は、在宅介護分野の人手不足解消に大きく貢献する一方、受け入れ施設には、外国人材への研修実施、一定期間の同行訓練、ハラスメント防止措置、そして不測の事態に対応するためのICT技術の活用を含めた環境整備が義務付けられます。
具体的にクリアすべき条件は「【2025年最新動向】特定技能外国人を訪問介護で活用するためにクリアすべき要件とは?」にまとめてあります。
経営戦略としてのM&Aとノウハウの内製化
介護/医療事業を迅速かつ安定的に拡大したい企業にとって、外国人材の受け入れノウハウを持つ企業とのM&Aは、有効な戦略的手段となります。M&Aを通じて、すでに確立された採用・育成体制、特に監理団体の機能を内製化した法人(例:研精会) と連携することで、高額な紹介手数料や人権リスクを低減しつつ、スムーズに外国人材活用を軌道に乗せることが可能です。
また、外国人材の権利保護と法令遵守の観点から、研精会のように外部の紹介機関(監理団体)を介さず、自社グループ内に紹介機関を設置し(内製化)、現地紹介機関の不正を直接識別できる管理体制を構築する動きも出てきています。これは、高額手数料を外国人労働者に負わせるなどの人権リスクを低減させるための、企業側の人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の取り組みの一環であり、今後の介護/医療経営において必須となるでしょう。
IT技術導入とダイバーシティへの適応
将来的に、外国人材に「選ばれる職場」であり続けるためには、労働環境と待遇の改善に加え、生産性の向上が不可欠です。
ICT技術の導入は、外国人材の受入れ・定着に向けた環境整備の一つとして厚生労働省も推進しています。IT技術を活用することで、業務効率化を図り、外国人スタッフがより専門的な介護業務に集中できる環境を提供できます。
さらに、異なる文化背景を持つ人材を受け入れることで、職場内のダイバーシティが向上し、日本人職員の働き方を見直すきっかけとなり、組織全体に新しい視点と活力がもたらされる効果も期待できます。企業担当者は、外国人材を単なる人手不足の解消策と捉えるのではなく、組織変革の起爆剤として捉え、介護/医療x外国人材の真の共生モデルを構築していくことが、喫緊の課題となっています。
日本の介護/医療現場が外国人材に「頼らざるを得ない」という現実は、もはや不可逆なトレンドです。この構造的な変化を乗り越え、持続可能な事業運営を実現するためには、制度の複雑さ、文化・言語の壁、そして人権リスクに真正面から向き合い、戦略的な人材確保と育成、そして職場環境の抜本的な改善が求められます。
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