介護人材不足の現状
深刻化する介護人材不足の現状と外国人材採用の重要性
日本の介護現場は、深刻な人材不足という構造的な問題に直面しています。内閣府のデータによると、日本の高齢化率は令和6年10月1日時点で29.3%と過去最高を記録しており、特に後期高齢者層の拡大が進んでいます。将来推計では、高齢者1人を支える生産年齢人口の数は2024年の2.0人から、2070年にはわずか1.3人にまで低下する見込みであり、介護サービスへの需要は今後も高まることが予想されています。
このような状況において、外国人介護人材は日本の介護現場で重要な役割を果たしており、介護人材不足解消に効果があると考えられています。全国の介護施設の44.9%が既に外国人介護人材を受け入れており、受け入れ施設の57.4%が今後も受け入れを増やしたいと考えていることから、外国人材への期待の高さがうかがえます。
外国人介護人材の雇用は、人材不足の解消だけでなく、若い労働力の獲得や、日本人応募者が集まりにくい地方施設での採用を可能にする大きなメリットがあります。また、日本での就労経験を通じて高度な介護スキルを習得した外国人材が帰国後、母国の医療・介護水準の向上に貢献することは、国際貢献・国際交流の観点からも重要な意義を持っています。
外国人介護人材の採用は、現在「特定技能」や「技能実習」の制度を活用する施設が多いですが、EPA(経済連携協定)を利用する施設も一定数存在しています。
EPA(経済連携協定)に基づく外国人材受け入れ制度の概要
EPA(経済連携協定)に基づく受け入れ制度は、二国間の経済連携強化を趣旨とする制度であり、介護領域においてインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国と協定が発効されています。
EPAを通じて受け入れられる人材は「特定活動(EPA介護福祉士候補者)」という在留資格を取得します。これは、単に労働力としてではなく、資格取得と母国への還元を目的としており、整ったスキームで育成を行うための制度として、初めて外国人介護士を受け入れる施設でも安心できる側面があります。
JICWELS(国際厚生事業団)によるマッチングと役割
EPA介護福祉士候補者の受け入れには、公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)によるマッチングが必須となります。JICWELSは、EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れを担当する機関であり、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国からの候補者を対象に、特別養護老人ホームや介護老人保健施設など様々な介護施設への受け入れを行っています。
JICWELSの主な役割は、候補者と受け入れ施設のマッチングです。専用のウェブサイトを通じて候補者の情報を提供し、施設からの求人票や説明書を受け付けます。また、厚生労働省の補助事業として、EPA介護福祉士候補者が介護過程を理解するための手引き(日本語版、インドネシア語版、英語版、ベトナム語版)を作成し、支援も行っています。
EPA介護福祉士候補者の採用要件と他在留資格との比較
EPA介護福祉士候補者は、入国前に一定の日本語能力レベルを証明することが必要であり、入国後も「訪日後日本語等研修」を受講することが義務付けられています。また、母国で看護学校・看護課程の卒業・修了、または大学などの高等教育機関を卒業し、母国政府による介護士認定を受けた人材であるため、高いスキルが期待できます。
2024年3月1日時点で、EPA介護福祉士・候補者の在留者数は3,186人(うち資格取得者は587人)となっています。
EPA候補者を受け入れる施設側の要件
EPA候補者を受け入れる施設には、制度の趣旨に基づき、候補者の資格取得を支援するための厳格な条件が設けられています。
- 施設・規模の要件:
- 法令に基づく職員配置基準を満たす定員30人以上の施設であること。
- 常勤介護職員の4割以上が介護福祉士資格を有していること。
- 処遇・環境の要件:
- 候補者に対して日本人と同等以上の報酬を支払えること。
- 適切な研修体制が確保できること。
- 候補者の宿泊施設が用意できること。
- 候補者の帰国費用の確保、および帰国担保措置を講じることができること。
- 候補者の学習支援体制が整っている施設であり、勤務時間中の学習時間の提供など、資格取得のサポートができる施設であること。
介護分野で外国人材を雇用する4つの在留資格の比較
EPA以外にも、介護分野で外国人を雇用できる主な在留資格には、「特定技能」、「技能実習」、「介護」があります。EPA候補者(特定活動)の制度を理解するためには、これらの在留資格との違いを把握することが重要です。
| 比較項目 | 特定活動(EPA) | 在留資格「介護」 | 技能実習(介護) | 特定技能「介護」 |
|---|---|---|---|---|
| 目的 | 資格取得・母国への還元 | 国家資格取得と定着 | 技術移転 | 即戦力として働くため |
| 滞在期間 | 最長4年(延長あり) | 永住可(資格取得後) | 原則3年(最大5年) | 最大5年(2号なし) |
| 日本語要件 | JLPT N3相当 | JLPT N1相当が望ましい | JLPT N4相当 | JLPT N4+介護日本語評価試験 |
| 業務範囲 | 基本的な介護業務 | 制限なし(指導・計画等可) | 限定的な実務 | 基本的な介護業務全般 |
| 訪問介護 | 不可 | 可能 | 不可 | 可能(2025年4月から条件付き) |
| 夜勤 | 単独での夜勤は不可 | 単独での夜勤が可能 | (詳細な制限あり) | 単独での夜勤が可能 |
| 家族帯同 | 原則認められない | 要件を満たせば可 | 原則認められない | 原則認められない |
| 試験 | 国家試験(介護福祉士)受験義務 | 国家試験あり | 介護技能実習評価試験 | 技能試験・日本語試験あり |
| 施設数 | 104施設(12.6%) | 279施設(33.9%) | 343施設(41.6%) | 534施設(64.8%) |
EPA候補者は、入国から4年目に介護福祉士国家試験の受験が義務付けられている点が、即戦力としての就労が主目的である特定技能や技能実習とは大きく異なります。
【4年間計画】候補者のキャリアアップと資格取得の道のり
EPA介護福祉士候補者を受け入れる上で最も重要な計画は、4年間で彼らが日本の介護福祉士国家試験に合格し、在留資格「介護」へ移行できるように育成することです。
国家資格取得という高いハードル
日本の介護・医療業界においてキャリアアップには国家資格が不可欠ですが、外国人材にとって日本語での国家試験合格は極めて困難な挑戦です。専門用語の理解、漢字の読み書き、日本特有の制度への理解など、日常会話レベルを超える言語的・文化的な壁が存在します。EPAで来日した候補者の国家試験合格率は依然として低い水準に留まっています。
合格後の在留資格「介護」は、在留期間の更新制限がなく、家族の帯同も可能となるため、外国人労働者にとって日本で永続的に働くための大きな目標となります。
育成計画の核となる資格取得支援
施設は、候補者がこの高いハードルを乗り越えられるよう、計画的かつ具体的な支援を行う必要があります。
- 段階的な資格取得支援の構築: 介護職員初任者研修から始まり、実務者研修、そして介護福祉士へとステップアップできる環境を整備することが効果的です。
- 学習環境の提供: 勤務時間内での研修受講を認めたり、受験費用を施設が負担する制度を導入することで、候補者の学習意欲を高めることができます。
- 日本語学習の強化: 多くの施設が日本語能力N3以上の水準を希望しており、語学力向上が課題として挙げられています。EPA候補者に対しては、日本人スタッフによる勉強会を定期的に開催し、専門用語の理解や試験対策をサポートする体制が有効です。 厚生労働省は、日本語能力試験N3程度合格や特定技能評価試験対策などを目的とした、「にほんごをまなぼう」という日本語自律学習支援WEBコンテンツを無料で提供しており、これを活用することもできます。また、外国人向けの介護福祉専門用語集や介護福祉士国家試験一問一答などの教材も多言語で提供されています。
- キャリアパスの明示: 資格取得後は、基本給の向上だけではなく、主任やリーダー職への昇進機会を提供することで、長期的なモチベーションの維持につながります。
EPA候補者が入国から4年間のうちに国家試験に合格できなかった場合、再受験は可能ですが、4年目の試験で不合格となると母国へ帰国しなくてはならないという厳格なルールがあります(ただし、1年間の滞在延長が認められる場合もあります)。この制度的な制約があるため、4年間での育成計画を確実に実行することが、施設にとって人材定着の鍵となります。
受け入れ施設に求められる具体的な支援体制とJICWELSの役割(広義の支援)
外国人材が日本で長く活躍し、雇用が継続されるためには、単に業務指導を行うだけでなく、生活面や文化面での広範な支援が不可欠です。受け入れ施設は、住居・生活・通勤・職場環境・スキルアップの各面で支援を行い、働きやすい環境を整える必要があります。
待遇と労働環境の整備
日本人と同等の待遇(57.9%の施設が重視)を提供することが、定着に向けて最も重視されています。これは、給与面やキャリアパスの提供を含みます。
外国人スタッフの労働時間は日本の労働基準法に準拠(7~8時間/日)させる必要があります。外国人スタッフの中には収入を増やすために長時間労働や夜勤を希望する声もありますが、法令遵守を徹底しつつ、夜勤ができるよう人材育成に力を入れることが、収入増(手当)と定着の両面で効果的です。ただし、EPA候補者の場合は単独での夜勤は不可とされています。
生活支援と住居の確保
受け入れ施設は、住居提供の配慮などの生活支援(53.5%の施設が重視)を重視しています。
外国人介護人材を採用する際、居住の確保や監理団体への依頼費が必要となるため、日本人スタッフの雇用よりも割高になる傾向があります。施設側は、渡航費用(約10万円)や、賃貸物件の敷金・家具・家電購入などの住居準備費用を負担する必要があります。
また、地域によっては「地域の理解不足(外国人にアパートを貸さないなど)」といった悩み事が指摘されており、自治体と連携した住環境整備や、市営住宅等の複数名での利用活用を求める意見もあります。
コミュニケーションと文化理解の促進
外国人介護人材の増加に伴い、コミュニケーション不足や文化の違いによる課題、トラブルが生じた施設も一定数あります。
- 言語の壁への対応: 医療・介護の専門用語や方言、日本語特有のニュアンスを理解することは難しいため、日本人スタッフは「ゆっくり、簡単な日本語でコミュニケーションを取る」などの配慮が必要です。
- 文化的なギャップへの対応: 日本特有の「おもてなし」や「察する文化」は、異なる文化背景を持つ外国人材にとって理解が困難な「暗黙の期待」となりがちです。異文化理解の研修を実施し、多様性の価値を共有することが、日本人スタッフの理解促進につながります。
- 宗教・習慣の尊重: 外国人材に定着してもらうためには、相手の国の文化や信仰を尊重し、「働きやすい」環境を作ることが大切です。例えば、宗教上の理由でお祈りが必要な時間帯には持ち場を離れることができるよう、協力体制を整えるなどの対応が求められます。
キャリアパスの構築と離職防止
将来的に介護福祉士資格を取得したいという外国人は非常に多いため、受け入れ側が彼らのキャリアに向き合える体制がなければ、転職されてしまうリスクが高まります。
EPA候補者のような外国人材を、単なる「人手」としてではなく、将来のリーダーや管理者として育成する視点が、施設運営の鍵となります。
- 明確なキャリアパスの共有: 入職時から5年後、10年後のキャリアビジョン(例:介護福祉士取得→主任→施設長)といった具体的な道筋を共有し、定期的な面談を通じて目標達成に向けた支援を継続します。
- ユニットリーダーへの登用: 経験を積んだ外国人材を、入職3年目程度でユニットリーダーとして登用するキャリアパスを設定することで、明確な目標を持って働いてもらうことが可能です。これにより、日本人スタッフと外国人スタッフの橋渡し役としての役割も期待できます。
外国人材がリーダーシップを発揮することで、施設全体のコミュニケーションが活性化し、多様性を受け入れる組織文化の醸成が期待されます。
外国人材を「人財」として定着させるための課題と対策
全国の介護現場で外国人材の雇用が進む一方で、受け入れを巡る課題や不安感も存在します。
採用・育成コスト
外国人介護人材の採用には、渡航費や各種手続き、登録支援機関への委託費用など、日本人スタッフの雇用よりも費用負担が大きいという課題が指摘されています。登録支援機関へ支援を委託する場合、月2万~4万円程度の費用が発生します。
一方で、国や自治体に対し、「特定技能の5年後の帰国義務の緩和」や「厚生年金の脱退一時金の是正」などを求める意見も寄せられています。
人材獲得競争の激化と選ばれる職場づくり
特定技能制度の解禁により、外国人介護人材の母数が増加し、応募も集まりやすい傾向にありますが、同時に国内での外国人材確保の競争も激化しています。
特に、2025年4月から特定技能外国人の訪問介護への従事が解禁されたことにより、施設系事業者と訪問系事業者との間で、日本語力が高く、経験豊富な人材の奪い合いが起こる可能性が予測されています。
日本が外国人労働者に選ばれる職場であり続けるためには、昨今の円安や日本の給料水準が上がらない状況を踏まえ、労働環境や待遇の改善、キャリア支援、IT技術の導入など、魅力的な職場を維持する努力が不可欠です。
介護福祉士国家試験不合格への対応(EPA/特定技能共通の悩み)
EPA候補者や特定技能外国人が目指す介護福祉士国家試験の難易度は依然として高く、試験の開催が年に1回のみであることも、現場にとって大きな悩みとなっています。
不合格時の帰国義務を回避し、継続的な雇用を可能にするため、入職時から早い段階で介護福祉士を目指す意識付けや、合格後のキャリアパスと処遇の明示、初任者研修や実務者研修の取得サポート、オンラインの国試対策講座受講サポートなどを行うことが重要です。
まとめ:EPA候補者育成がもたらす施設と社会への価値
EPA介護福祉士候補者の受け入れは、単なる人手不足の解消策に留まらず、候補者に対し最長4年間にわたる集中的な育成プログラムを提供し、国家資格である介護福祉士の取得を目指す戦略的な人材育成投資です。
受け入れ施設は、JICWELSによるマッチングを経た、母国で一定の知識を有した人材を受け入れることができますが、その代わりに、日本人と同等以上の待遇や厳格な住居・学習支援体制を整える義務を負います。
この4年間で、言語・文化・資格の壁を乗り越えて候補者が介護福祉士資格を取得すれば、彼らは在留資格「介護」へ移行し、永続的な日本の介護現場の中核人材(将来のリーダー候補)として活躍することが期待できます。
外国人材の雇用を成功させる鍵は、文化的な違いを理解し、彼らのキャリアパスを共同で策定し、資格取得に向けた支援を惜しまない、包括的な育成体制を構築することにあります。EPA候補者の育成は、日本の介護現場の質の向上と、国際的な人材育成への貢献という、二重の価値をもたらす取り組みと言えるでしょう。
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