はじめに – 特定技能制度の現状と課題
2019年4月に創設された特定技能制度は、日本の深刻な人手不足を解決する切り札として期待されています。しかし、制度開始から約5年が経過した現在、企業間で外国人材の定着率に驚くほど大きな差が生まれています。
一部の企業では定着率が95%を超える一方で、30%を下回る企業も存在するのが現実です。この格差は単なる偶然ではなく、受け入れ企業の姿勢と具体的な取り組みによって決定的な差が生まれているのです。外国人材を雇用することで得られるメリットを把握し、特定技能制度でビジネスを成功に導きましょう。
本記事では、政府統計データ、民間調査結果、そして実際の企業事例を詳細に分析し、特定技能外国人材の定着に成功している企業と失敗している企業の決定的な違いを明らかにします。これらの知見により、外国人材採用を検討している企業や、現在の定着率に課題を感じている企業にとって、具体的で実践可能な改善策をご提示いたします。
統計データから見る現実 – 政府データと民間調査結果
参照元:出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数の公表について
- 特定技能外国人の離職率:16.1%(制度施行〜2022年11月)
- 在留者総数:284,466人(2024年12月末時点)
- 自己都合による離職者数:19,891人(約3年半で発生)
興味深いことに、この16.1%という離職率は、日本人新卒者の3年以内離職率32.3%(大卒)を大幅に下回っています。つまり、適切に受け入れられた特定技能外国人は、日本人よりも高い定着率を示しているのです。
しかし、民間調査機関による詳細な分析では、より厳しい現実が明らかになっています
- 1年以内離職率:66.9%(離職した特定技能外国人のうち)
- 海外直接採用の定着率:約85%
- 国内転職者の定着率:約60%
- 推計離職者数:約45,800人(2024年末時点)
参照元:民間調査機関による特定技能外国人離職状況調査(350人対象)
株式会社ONODERA USER RUNが実施した特定技能外国人材を1年以上継続雇用した企業担当者300名を対象とした調査では、以下の重要な事実が判明しました。
- 42%の企業が「特定技能外国人の定着率は日本人従業員より高い」と回答
- 39%が生産性向上を実感
- 31%が「7-12ヶ月で日本人従業員と同等の生産性に到達」と回答
- 27%が「3-6ヶ月で同等レベルに到達」と回答
参照元:株式会社ONODERA USER RUN「特定技能外国人材の定着率調査」(2025年3月実施)
成功企業の事例分析(定着率95%クラス)
株式会社ベネッセスタイルケア
介護業界最大手の株式会社ベネッセスタイルケアは、特定技能制度開始直後から積極的に外国人材を受け入れ、驚異的な定着率を実現しています。
- 成功要因の詳細分析
- 自社支援体制の構築: 登録支援機関に依存せず、自社内に専門部署「海外人財開発部」を設置。事前ガイダンス、生活オリエンテーション、住居確保支援を一貫して自社で実施しています。
- メンター制度の導入: 日本人職員をメンターとして配置し、業務面だけでなく生活面でのサポートを提供。定期的な面談により、小さな不安も見逃さない体制を確立しています。
- キャリアパスの明確化: 介護福祉士取得支援、リーダー職への昇進機会提供など、長期的な成長の道筋を明示しています。
参照元:マイナビグローバル「外国人採用の成功と定着事例」
Stepjob
外国人材紹介・支援を行うStepjobでは、入職後6ヶ月の定着率95%という驚異的な実績を誇っています。
- Stepjobの成功メソッド
- 「採用→入職→定着」の一貫サポート: 採用前のマッチング、入職時のオンボーディング、入職後の継続支援を切れ目なく提供しています。
- 企業と外国人材双方への継続的フォロー: 定期的な三者面談の実施、課題の早期発見と迅速な対応を行っています。
- 豊富な実績に基づく最適化: これまでの支援経験から得られたノウハウを体系化し、個別企業の特性に合わせてカスタマイズしています。
定着率95%を超える企業には、以下の共通要素が確認されています。
| 要素 | 具体的な取り組み |
| 日本語学習支援 | eラーニング提供、業務時間内での学習時間確保、資格取得支援 |
| 生活支援の充実 | 住居確保、銀行口座開設同行、病院受診サポート、交通手段提供 |
| 職場環境整備 | 多言語マニュアル、やさしい日本語の使用、文化交流イベント開催 |
| キャリア支援 | 明確な昇進基準、スキルアップ研修、資格取得費用補助 |
| 継続的フォロー | 月1回の個別面談、24時間相談窓口、メンター制度 |
失敗企業の課題分析(定着率30%以下)
株式会社ONODERA USER RUNの調査によると、特定技能外国人の離職理由として最も多いのは「職場環境への不適応」(39%)でした。
- 主な離職理由(複数回答)
- 職場環境への不適応:39%
- 母国への帰国:27%
- より給与が高い企業への転職:24%
- 家族の理由:10%
参照元:株式会社ONODERA USER RUN「特定技能外国人材の定着率調査」
失敗企業に共通する問題点
定着率30%以下の企業には、以下のような共通した問題が見られます。
- コミュニケーション支援の不備: 日本語での説明のみ、専門用語の多用、文化的背景への理解不足により、外国人材が孤立する状況が発生。「察してもらう」文化への過度な依存も問題となっています。
- 生活支援体制の欠如: 住居確保は行うものの、その後の生活面でのサポートが不十分。ゴミの分別方法、公共交通機関の利用方法、医療機関の受診方法などの基本的な生活情報の提供が不足しています。
- 期待値の不一致: 採用前の説明と実際の業務内容・労働条件の乖離。特に残業の頻度、休日出勤の有無、昇進の可能性などで期待と現実のギャップが発生しています。
- 日本人従業員の理解不足: 現場の日本人従業員が外国人材の文化的背景や言語的制約を理解しておらず、無意識のうちに排除的な態度を取ってしまうケースが見られます。
日本経済新聞の報道によると、特定技能外国人の退職者の約6割が在籍1年以内に離職している実態が明らかになりました。
- 離職時期の分析
- 3ヶ月以内:28.3%
- 6ヶ月以内:45.7%
- 1年以内:60.2%
- 主な退職理由
- 給与への不満
- 人間関係の問題
- 職場環境への不適応
- キャリアアップ機会の不足
参照元:日本経済新聞「特定技能の外国人、退職者6割が在籍1年以内」(2024年12月24日)
成功 vs 失敗の決定的な違い
日本語学習支援体制
- 成功企業の取り組み: 定着に成功している企業の32%が「日本語学習支援」を最も効果的な定着促進策として挙げています。具体的には、eラーニングシステムの提供、業務時間内での学習時間確保、日本語能力試験の受験費用補助などを実施しています。
- 失敗企業の問題: 失敗企業では、入社時の日本語レベルのみで判断し、その後の継続的な学習支援を怠る傾向があります。また、業務で使用される専門用語の説明が不十分で、外国人材が理解に苦労するケースが多発しています。
生活サポート体制
| 項目 | 成功企業 | 失敗企業 |
| 住居支援 | 社宅提供、近隣物件紹介、保証人代行 | 物件情報の提供のみ |
| 生活オリエンテーション | 多言語での詳細説明、実地研修 | 日本語資料の配布のみ |
| 交通手段 | 電動自転車支給、通勤経路同行 | 自己解決を前提 |
| 医療サポート | 医療機関同行、多言語対応病院紹介 | 保険証の説明のみ |
キャリアパス設計
- 成功企業のアプローチ:
- 入社時点で5年間のキャリアプランを明示
- 特定技能2号取得への具体的な道筋を提示
- 昇進・昇格の基準を多言語で明文化
- スキルアップ研修の定期開催
- 失敗企業の問題:
- 単純労働としてのみ位置づけ
- 成長機会の提供不足
- 将来への不安を放置
- 日本人従業員との待遇格差
コミュニケーション環境
成功企業では、「社内コミュニケーションの改善」を定着率向上の重要課題として36%の企業が挙げています。具体的には以下の取り組みを実施しています。
- 多言語対応のコミュニケーションツール導入
- やさしい日本語研修の実施
- 文化交流イベントの定期開催
- メンター制度による1対1のサポート
- 24時間対応の相談窓口設置
実践的改善策
定着率を改善するために、すぐに実行できる具体的な施策を以下に示します。
- 1. やさしい日本語の導入: 専門用語を避け、短い文章で、ひらがなを多用した「やさしい日本語」での業務マニュアルを作成します。これにより、コミュニケーション不足による離職を大幅に削減できます。
- 2. 多言語対応の評価シート作成: 調査では35%の企業が「多言語での評価シート」を効果的として導入しています。母国語での正確な評価理解により、モチベーション向上と定着促進が実現できます。
- 3. 定期面談の体系化: 3ヶ月に1回の義務的面談を超えて、月1回の個別面談を実施。早期の問題発見により、離職の66.9%を占める1年以内離職を効果的に防止できます。
- 4. 生活支援パッケージの整備:
- 住居確保サポート(保証人代行サービス利用)
- 銀行口座開設同行
- 携帯電話契約支援
- 最寄り医療機関の多言語対応状況調査・共有
中長期的な取り組み
- 1. 日本語学習支援プログラムの構築: 32%の企業が効果を実感している日本語学習支援を体系化します。
- eラーニングシステムの導入
- 業務時間内での学習時間確保(週2時間程度)
- 日本語能力試験受験費用の全額補助
- 合格時のインセンティブ制度
- 2. キャリアパス制度の明文化: 25%の企業が定着促進に効果的としている「キャリアパスの明確化」を実現します。
- 特定技能2号取得までのロードマップ作成
- 昇進・昇格基準の多言語化
- スキルアップ研修制度の整備
- 長期就労者への表彰制度導入
- 3. ダイバーシティ推進体制の構築: 36%の企業が重要視する「社内コミュニケーション改善」のため、組織全体でダイバーシティを推進します。
- 管理者向け異文化理解研修の実施
- 日本人従業員への多様性教育
- 文化交流イベントの定期開催
- 多言語対応の社内情報共有システム構築
- 4. 人材確保等支援助成金の活用: 厚生労働省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を活用し、通訳費や翻訳料などの経費について1制度導入につき20万円(上限80万円)の助成を受けながら環境整備を進めることができます。
まとめと今後の展望
本調査・分析により、特定技能外国人材の定着率95%と30%の企業間には、以下の決定的な違いがあることが判明しました。
成功企業の5大成功要因
- 日本語学習支援の充実(32%の企業が最重要視)
- 生活支援の手厚さ(住居・医療・交通手段の総合サポート)
- キャリアパスの明確化(25%の企業が効果実感)
- コミュニケーション環境の整備(36%が今後強化予定)
- 継続的なフォロー体制(定期面談・相談窓口の充実)
特に注目すべきは、適切な支援体制を整えた企業では、特定技能外国人の定着率が日本人従業員を上回るという事実です。これは、外国人材が「働きにくい存在」ではなく、適切な環境下では「最も定着しやすい貴重な人材」であることを示しています。
今後の展望
2024年末時点で28万人を超えた特定技能外国人は、今後も継続的な増加が予想されます。企業にとって、外国人材の定着は単なる人手不足解決策を超えて、組織の競争力向上に直結する戦略課題となっています。
成功企業の事例が示すように、初期投資として日本語学習支援や生活サポート体制に資源を投入することで、長期的には以下のメリットを享受できます。
- 採用コストの削減(高い定着率による再募集の不要化)
- 生産性の向上(調査では39%の企業が実感)
- 企業ブランド価値の向上(外国人コミュニティでの評判向上)
- 多様性による組織力の強化
- 海外展開時の橋渡し人材としての活用
一方で、支援体制の不備により30%の定着率に留まる企業は、継続的な採用コスト負担、生産性の低迷、企業評判の悪化という悪循環に陥るリスクを抱えています。
特定技能制度の更なる拡充が予定される中、今こそ企業は「外国人材との共生」を前提とした組織運営への転換を図る絶好の機会です。本記事で紹介した成功事例と具体的施策を参考に、持続可能な外国人材活用体制の構築に取り組まれることを強く推奨いたします。
特定技能人材の高い定着率を実現するための戦略ロードマップ
緊急度別実践プライオリティ
【最優先】実施すべき施策
- 現在雇用中外国人材の満足度・課題調査
- 登録支援機関との連携体制見直し
- 現場管理者への異文化理解研修
- 日本語教育システムの選定・導入検討
【重要】3ヶ月以内の体制構築
- 入社前オリエンテーションプログラム策定
- バディ制度・メンター制度の制度化
- 定期面談・フィードバックシステム構築
- 学習進捗データ分析体制の整備
【戦略】6ヶ月-1年での競争優位確立
- 2号移行支援プログラム開発
- 外国人材キャリア形成制度設計
- 多文化共生組織への変革推進
- 採用ブランディングへの活用
まとめ:284,466人から82万人時代の企業戦略
外国人材雇用はもはや「選択肢」ではなく「必須戦略」となりました。しかし、単純な人手確保競争から「優秀人材の長期確保・戦力化競争」へとパラダイムが変化しています。
勝ち組企業になるための3つの条件
- 「採用」から「戦力化」への発想転換
- データドリブンな継続改善システム
- 現場直結型日本語教育への投資
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82万人受け入れ時代において、適切な教育投資を行った企業とそうでない企業の格差は決定的になります。今こそ、外国人材を真の戦力に変える戦略的投資を始める時です。
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