介護福祉士の資格を取得すれば、外国人材は在留資格を「介護」に切り替え、期間の制限なく貴社で働き続けられます。ただし直近の国家試験では、EPA介護福祉士候補者の合格率が31.8%まで落ち込み、過去最低を更新しました(社会福祉振興・試験センター発表、2026年3月)。技能実習・特定技能・EPAのいずれのルートから受験するにせよ、外国人材が合格に至るには、日本語力の壁を前提とした施設側の支援体制が欠かせません。本記事では、受験資格を得るための3つのルート、在留資格別の合格率、そして受け入れ施設が取るべき支援策を、人事・施設運営の担当者向けに整理します。
この記事でわかること
- 介護福祉士資格の取得が在留資格「介護」への移行につながる仕組み
- 外国人材が国家試験の受験資格を得るための3つのルートの違い
- 在留資格別(EPA・特定技能・技能実習)の最新合格率と背景
- 受け入れ施設が直面する「勉強時間」「教材」「日本語力」の課題
- 施設側がすぐに着手できる支援策の具体例
外国人材が介護福祉士資格を取得すると在留資格「介護」に移行できる
技能実習・特定技能・EPA(経済連携協定)のいずれかで来日した外国人材が介護福祉士国家試験に合格すると、在留資格を「介護」に変更できます。在留資格「介護」には在留期間の更新回数に上限がなく、配偶者・子どもの帯同も可能です。技能実習(最長5年)や特定技能1号(通算5年)のように在留期間に制約のある資格と異なり、貴社が育成した人材をリーダー・指導役として長期的に定着させられる点が、施設側にとっての最大のメリットです。
出入国在留管理庁の発表によると、在留資格「介護」で働く外国人材は2022年6月末時点で5,339人でしたが、2024年12月末には12,227人、2025年12月末には15,891人まで増加しています。技能実習・特定技能から介護福祉士資格を経て「介護」へ移行する人材が着実に増えており、採用競争が激しい介護業界において、資格取得支援は人材の引き留め策としても機能し始めています。
在留資格ごとの在留期間を比較すると、技能実習は最長5年、特定技能1号は通算5年で更新回数にも上限があります。これに対して在留資格「介護」は更新回数の制限がなく、特定技能2号と同様に配偶者・子どもの帯同も認められます。つまり施設側から見れば、技能実習・特定技能で受け入れた人材のうち介護福祉士資格を取得した人材だけが、期限を気にせず現場のリーダー・指導役として育成できる対象になるということです。採用コストをかけて受け入れた人材を数年で手放すのか、資格取得を後押しして長期戦力化するのかは、施設の収益構造に直結する経営判断でもあります。
一方で、後述するとおり外国人材の国家試験合格率は低下傾向にあり、「資格を取れば移行できる」という制度上の道筋と、「実際に合格させられるか」という現場の実態には大きなギャップがあります。制度が用意した出口と、現場が用意できる支援体制の間にあるこのギャップを埋められるかどうかが、施設の人材戦略を左右します。
介護福祉士国家試験の受験資格ルートは3種類
外国人材が介護福祉士国家試験の受験資格を得る方法は、在留資格に応じて主に3つのルートに分かれます。どのルートに該当するかで、必要な実務経験年数や研修内容、施設側が用意すべきサポートが変わるため、まず自社の人材がどのルートに位置するかを整理することが第一歩です。
養成施設ルート(留学生材向け)
在留資格「留学」で来日し、介護福祉士養成施設(専門学校・大学等)で2年以上のカリキュラムを修了することで受験資格(2027年度以降は卒業と同時に資格取得可能な経過措置あり)を得るルートです。座学と実習を通じて体系的に知識を習得できるため、3ルートの中では合格率が最も安定しやすい傾向にあります。一方で施設側からすると、留学から卒業までの2年間は採用ができないため、採用までのリードタイムが長いという制約があります。学費は年間100万円前後かかることが多く、国費・自治体の奨学金制度や、卒業後の一定期間就労を条件に学費を貸与・免除する介護施設独自の制度とセットで検討されるケースが一般的です。すでに来日している留学生を対象にするか、母国の日本語学校と提携して人材パイプラインを作るかで、採用戦略の設計は大きく変わります。
実務経験ルート(技能実習・特定技能から目指す場合)
技能実習または特定技能1号で介護施設に配属された人材が、実務者研修(450時間、通信講座+スクーリングで6カ月〜1年程度が目安)を修了し、3年以上の実務経験を積むことで受験資格を得るルートです。すでに現場で働きながら資格取得を目指せるため、多くの受け入れ施設にとって最も現実的な選択肢になります。実務者研修の受講費用(10万〜20万円程度が相場)を施設が全額・一部負担するか、本人負担にするかは定着率に直結するため、採用時点で方針を明確にしておく必要があります。特定技能「介護」の基本要件については、特定技能「介護」の基本条件と受け入れまでのステップで詳しく解説しています。また、訪問介護分野での特定技能活用を検討している施設は、特定技能外国人を訪問介護で活用するための要件も参考にしてください。
なお技能実習制度は「育成就労制度」への移行が進んでおり、実務経験ルートの前提となる在留資格の枠組みも変わりつつあります。移行期には実務経験のカウント方法や研修体系が変わる可能性があるため、すでに技能実習生を受け入れている施設は早めに情報を確認しておくべきです。制度変更の詳細は技能実習制度の「育成就労制度」への移行で介護施設が知っておくべき変更点にまとめています。
EPAルート(経済連携協定に基づく候補者)
インドネシア・フィリピン・ベトナムの3カ国出身者に限定された特別な受け入れ制度で、在留資格「特定活動」で入国し、介護施設で就労・研修をしながら3〜4年目に受験資格を得ます。受け入れにはJICWELS(国際厚生事業団)を通じたマッチングが必要で、入国前に本国で一定期間の日本語研修を受けていること、入国後も施設側が定期的な研修時間を確保する義務がある点など、他の2ルートと比べて公的な研修プログラムが手厚い一方で、受け入れ側の事務負担・研修コストも大きくなります。候補者を受け入れられる期間は最長4年(1回の滞在更新が可能)で、その間に合格できなければ帰国が原則となるため、施設側の支援体制がそのまま合否に反映されやすいルートでもあります。EPAルートの制度設計・受け入れプロセスの詳細は、EPA介護福祉士とは?制度の仕組みから合格率、定着支援のポイントまでで解説しています。
合格率と難易度|在留資格別に見える「日本語力の壁」
介護福祉士国家試験そのものの難易度は、他の国家資格と比べて突出して高いわけではありません。第37回試験(2025年1月実施)の全体合格率は78.3%(受験者75,387人、合格者58,992人)で、日本人・在留資格を問わない全受験者の約8割が合格しています。
しかし、外国人材に絞ると数字は大きく変わります。同じ第37回試験でのEPA候補者の合格率は37.9%(498人合格)、特定技能1号は33.3%、技能実習は32.3%にとどまりました。さらに直近の試験(2026年1月実施、社会福祉振興・試験センター発表)では、EPA候補者の合格率が31.8%(380人合格)まで低下し、EPA制度開始(2011年度)以降で最低の水準となっています。
国別に見ると、この差はより鮮明です。同試験の国別合格者数はインドネシア185人、ベトナム103人、フィリピン92人でしたが、母集団に対する合格率で見るとベトナム候補者は約90%と突出して高く、インドネシア・フィリピン候補者は30%前後にとどまります。介護福祉士試験は五肢択一の筆記試験(125問、生活支援技術・こころとからだのしくみ・医療的ケアなど13科目群)が中心で、実技試験は実務者研修等の修了により多くの受験者が免除されます。つまり合否のほとんどは筆記試験、すなわち専門用語を含むN2相当以上の日本語読解力によって決まります。漢字圏出身で来日前から日本語教育カリキュラムが体系化されているベトナムと、非漢字圏で日本語教育の蓄積が薄いインドネシア・フィリピンとの差は、この構造をそのまま反映したものです。
なお試験制度上は、外国人受験者に対して「試験時間の延長」「ふりがなの付与」「平易な言葉への言い換え」といった配慮措置が用意されています。しかし配慮措置はあくまで受験環境の公平性を担保するものであり、専門用語そのものの理解を助けるものではありません。時間延長やふりがなだけで得点が伸びるわけではない点は、施設側が学習支援計画を立てる際に見落としやすいポイントです。
つまり、外国人材の合格率を左右しているのは試験制度そのものの難しさではなく、「受験までにどれだけ体系的な日本語教育を受けてきたか」という一点に集約されます。施設側が試験直前の対策講座だけを用意しても、母国での日本語教育の差を短期間で埋めることは難しく、採用段階から日本語力を見極める、あるいは配属後早期から日本語学習を並走させる仕組みが必要になります。EPA候補者の合格率が過去最低を更新した2026年3月発表の結果は、対策講座の充実だけでは合格率の低下に歯止めがかからなくなりつつあることを示しています。
受け入れ施設側が直面する課題と支援のポイント
外国人材を介護福祉士資格取得、そして在留資格「介護」への移行まで導くには、施設側に4つの壁があります。
1つ目は勤務時間内での学習時間の確保です。 夜勤・交代制のシフトの中で、まとまった学習時間を本人任せにすると、学習は後回しになりがちです。月次のシフト作成段階で学習時間を組み込む、試験直前3カ月は勤務調整を行う、休憩時間の一部を学習アプリでの復習に充てられるようルール化するなど、制度としての時間確保が合格率に直結します。特に技能実習・特定技能の人材は本人が「勉強のために勤務を減らしてほしい」と申し出にくい立場にあることが多く、施設側から時間確保の仕組みを提示することが前提になります。
2つ目は教材・学習支援の不足です。 介護福祉士試験の過去問集や模擬試験は市販されていますが、外国人材向けにふりがな・多言語解説が付いた教材は限られています。厚生労働省が提供する多言語学習コンテンツや外部の試験対策講座を組み合わせる施設が増えていますが、どの教材をどの順序で・どのペースで使わせるかを人事担当者が個別に設計するのは負荷が高く、担当者の異動や退職とともにノウハウが失われる属人化しやすい領域です。年に一度、担当者が変わるたびに支援体制がゼロから作り直されている施設も少なくありません。具体的な学習支援・教材の組み立て方は、難関介護福祉士国家試験を突破させる!外国人スタッフ向けの具体的学習支援と教材で詳しく解説しています。
3つ目は日本語力そのものの底上げです。 前章で見たとおり、合格率を左右する最大の要因は専門用語を含む日本語の読解力です。試験対策講座を受講させる前提として、N3〜N2相当の日本語基礎力が本人に備わっているかどうかが、学習効果を大きく左右します。試験の数カ月前になって初めて過去問を解かせても、日本語の読解力自体が不足していれば得点は伸びません。日本語教育を試験対策と切り離し、配属直後から継続的に行える体制があるかどうかが、合格率の差になって表れます。
4つ目は費用負担と施設内の意識共有です。 実務者研修の受講料、試験対策講座の受講料、受験料、場合によっては受験のための移動・宿泊費まで、資格取得には数万円〜数十万円のコストがかかります。これを誰がどこまで負担するのかを曖昧にしたまま採用すると、本人のモチベーション低下や、費用負担を巡るトラブルの原因になります。あわせて、資格取得支援は人事担当者だけでなく現場のシフト管理者・先輩職員の理解がなければ機能しません。「合格させるための投資」であることを施設全体で共有できているかどうかも、実質的な支援の質を左右します。
これら4つの課題に共通するのは、いずれも「担当者一人の努力」では解決しきれない、仕組みの問題だという点です。学習時間の確保はシフト管理、教材選定は教育設計、日本語力の底上げは継続的な学習環境、費用負担は経営判断という、それぞれ別のレイヤーの仕組みが必要になります。
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よくある質問
資格取得にかかる費用は誰が負担すべきですか?
法律上の負担義務はなく、施設ごとの判断になります。ただし実務者研修費・受験料を全額本人負担にすると学習意欲の低下や早期離職につながりやすく、逆に全額施設負担にすると「合格すれば長期間働いてもらう」という前提の共有が必要です。全額補助+一定期間の勤務継続を条件にする、合格時に受験料相当額を報奨金として支給するなど、負担と定着を紐づける設計をしている施設が多く見られます。
実技試験も対策する必要がありますか?
技能実習・特定技能から実務者研修(450時間)を修了して受験する場合、実技試験は原則免除されます。養成施設ルートも同様に実技は免除されるケースが大半です。したがって外国人材の学習支援は、実技よりも筆記試験(特に日本語読解力)に重点を置くのが合理的です。
不合格だった場合、在留資格はどうなりますか?
技能実習・特定技能の在留期間内であれば、翌年度以降の再受験が可能です。ただしEPAルートは候補者としての滞在期間に上限があるため、期限内に合格できなければ原則帰国となります。いずれのルートでも、不合格を前提とした「次年度に向けた学習計画の立て直し」を施設側があらかじめ用意しておくことが望ましいです。
育成就労制度への移行で受験資格ルートは変わりますか?
技能実習が育成就労制度に移行しても、実務者研修修了と実務経験3年以上という受験資格の基本要件自体が大きく変わるわけではありません。ただし在留資格の枠組みや実務経験のカウント方法に変更が生じる可能性があるため、すでに技能実習生を受け入れている施設は制度移行のスケジュールを継続的に確認しておく必要があります。
外国人材の介護福祉士資格取得は、養成施設・実務経験・EPAのどのルートを選んでも、最終的な合否を分けるのは日本語力です。3つの受験ルートの違いを理解したうえで、学習時間・教材・日本語教育・費用負担という4つの支援を仕組み化できるかどうかが、在留資格「介護」への移行、ひいては人材の長期定着を実現できるかどうかを決めます。
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本記事で見てきたとおり、外国人材の介護福祉士国家試験の合否を最終的に分けるのは、受験ルートの違いではなく「専門用語を含むN2相当以上の日本語読解力」です。しかも、この差は試験直前の対策講座だけでは埋めきれず、配属直後からの継続的な日本語教育の有無が合格率に表れます。EPA候補者の合格率が過去最低を更新したいま、「対策講座の充実」から「日本語教育の仕組み化」への転換が施設側に求められています。
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