留学生の内定者を採用したとき、卒業後〜入社日までの「空白期間」に何が起きているかを正しく把握している企業はまだ多くありません。実は、この期間に適切な在留資格の変更手続きを行わないと、企業側が不法就労助長罪に問われるリスクがあります。本記事では、HR担当者が今すぐ動けるよう、特定活動(内定者)への切り替え手順とよくある失敗パターンを解説します。
この記事でわかること
- 卒業後に資格外活動許可が自動失効するしくみ
- 空白期間を放置したときの企業側リスク
- 特定活動(内定者)への切り替え申請の概要と必要書類
- HR担当者が取るべき具体的なSTEP手順
- よくある失敗パターンとHR担当者向けチェックリスト
卒業後の空白期間中、留学生の在留資格はどうなるのか?
「留学」ビザが残っていても就労許可は消えている
留学生の多くは「留学」という在留資格で日本に滞在しています。在留カードには有効期限が記載されており、その日付が残っていれば日本に在留し続けること自体は問題ありません。しかし、見落としがちなのが「資格外活動許可」の存在です。
在学中のアルバイト(週28時間以内)は、この「資格外活動許可」によって認められています。ところがこの許可は、卒業(修了)と同時に自動的に失効します。つまり、在留カードに有効期限が残っていても、卒業後は就労行為の許可が消えた状態になるのです。
アルバイトはもちろん、研修・業務体験といった形式であっても、報酬を伴う労働行為を行えば違法就労にあたります。「会社から声をかけたわけではなく、内定者が自発的に来た」という理由では免責されません。企業側も責任を問われます。
空白期間はなぜ生まれるのか?
多くの企業が4月1日入社を基本としているため、9月や10月に修了する留学生には半年以上の空白が生まれます。また3月卒業の場合でも、健康診断・入社前研修・社宅の準備などの都合で、卒業から入社まで1〜2ヶ月の空白が生じることは珍しくありません。
日本語学校の修了時期は3月と9月の2回が一般的です。企業の入社タイミングと一致しないケースが多く、特に9月修了の学生は長期間の空白を抱えることになります。この現実を知らないまま採用活動を進めると、のちの法令違反につながります。
具体的なケースで考えると、2024年9月に日本語学校を修了した内定者が2025年4月に入社する場合、空白期間は7ヶ月にもなります。この7ヶ月間、何の対処もしなければ「在留は合法、就労は違法」という状態が続きます。内定者が就労していない場合でも、企業が業務に関与させれば問題になります。
何も対処しないと企業はどんなリスクを負うのか?
不法就労助長罪が適用されるリスク
出入国管理及び難民認定法(入管法)第73条の2は、不法就労者を雇用・あっせんした者を「不法就労助長罪」として罰します。法定刑は5年以下の懲役または500万円以下の罰金、またはこれらが併科される(2025年6月に「3年以下の懲役 もしくは 300万円以下の罰金。場合によってはその両方が科される」からより厳罰化)となっています。
最も重要なポイントは、「知らなかった」という主張が免責の理由にならないことです。企業には外国人を雇用・受け入れる際に、在留資格と就労可能な活動の範囲を確認する義務があります。資格外活動許可が失効した状態で内定者に業務や研修を行わせた場合、たとえ経緯を知らなかったとしても、責任を問われる可能性があります。
また、在留資格の確認を怠ったとして行政指導を受けた場合、その後の外国人雇用に関する許認可の取得・更新に影響が出るケースもあります。
内定者本人への深刻な影響
企業だけでなく、内定者本人にとっても深刻なリスクがあります。不法就労が発覚した場合、在留資格の取消・強制退去処分を受ける可能性があります。一度強制退去になると、数年間は日本に再入国できなくなるケースもあります。
企業が費やした採用コスト、内定者本人が支払ってきた留学費用と積み重ねた努力、そのすべてがゼロになる最悪の事態を招きかねません。外国人社員の離職・強制退去に至った場合の再採用コストは、採用費・教育費・引き継ぎコストを含めると相当な額になります。
コンプライアンス問題として拡大するリスク
外国人雇用に関する法令違反は、単なる人事上のミスにとどまりません。発覚した場合、社内のコンプライアンス担当部門や法務部門が介入し、他の外国人雇用状況の一斉見直しに発展するケースがあります。取引先や顧客に知られれば、信頼損失につながる可能性もあります。
外国人材の雇用が増加するなか、在留資格の管理体制は企業の社会的信用を守るインフラとして機能します。ビザ申請コストや更新手数料の増加については在留資格更新手数料の値上げと企業への影響もあわせてご参照ください。
解決策「特定活動(内定者)」への切り替えとは何か?
特定活動(告示第14号)とはどのような在留資格か?
「特定活動」は、法務大臣が個別に指定した活動のために付与される在留資格です。その中に、就職内定者が就労開始まで待機するために設けられた類型があります。一般に「特定活動(内定者)」または「特定活動告示第14号」と呼ばれています。
この在留資格は、本邦の企業等との間で雇用契約が成立した内定者が、就労開始日(入社日)まで合法的に日本に在留するための制度です。アルバイトを含む就労行為は認められませんが、日本に在留し続けることができます。
申請主体は内定者本人です。しかし、企業が発行する「就労内定証明書(採用内定通知書)」が申請の必須書類の一つとなるため、実質的に企業のサポートなしには申請が困難な手続きです。内定者任せにせず、HR担当者が伴走することが重要です。
申請のタイミングと審査期間
申請は卒業(修了)予定の2〜3ヶ月前に着手するのが理想です。出入国在留管理庁での審査には通常1〜2ヶ月かかるとされており、卒業後に「資格外活動許可」が失効するまでに許可を得ておく必要があります。
卒業後に気づいた場合は早急に申請が必要です。在留期限(在留カードの有効期限)が切れている状態では、帰国が必要になるケースもあるため、早め早めの行動が求められます。
在留資格の詳細な区分と就労可能な範囲の比較については技人国ビザと特定技能のコンプライアンス比較もご参照ください。
企業HR担当者が取るべき具体的な手順は?
STEP1 内定者の状況を採用決定直後に確認する
採用が決まった時点で、以下の情報を必ず確認します。
- 卒業(修了)予定日
- 現在の在留資格の種類(留学・特定活動 等)
- 在留カードの有効期限
- 入社予定日
この4点を確認し、卒業〜入社日の間に空白期間が発生するかを判断します。空白が発生する場合は、特定活動への変更手続きのフラグを立て、担当者を明確にします。
STEP2 就労内定証明書(採用内定通知書)を発行する
特定活動(内定者)の申請に必要な主な書類の一つが、企業が発行する「就労内定証明書」または「採用内定通知書」です。通常の内定通知書と兼ねても構いませんが、以下の項目が明記されている必要があります。
- 会社名・所在地・連絡先
- 採用する内定者の氏名
- 入社予定日
- 職種・業務内容
- 雇用形態(正社員・契約社員 等)
- 給与・待遇の概要
書類の書式は自社のものでかまいません。代表者や採用担当部門責任者の署名または押印があるものが望ましいです。
STEP3 申請書類の準備を内定者とともに進める
申請に必要な主な書類は以下のとおりです(出入国在留管理庁の公式サイトで最新情報を必ず確認してください)。
- 在留資格変更許可申請書(法務省書式)
- パスポートのコピー
- 在留カードのコピー(表裏)
- 在学証明書または卒業(修了)見込み証明書
- 就労内定証明書(企業発行)
- 証明写真(4cm×3cm)
書類の準備は内定者任せにせず、HR担当者が確認しながら一緒に進めることを強くおすすめします。留学生の多くは特定活動(内定者)の制度を知らないため、「何が必要かわからない」という状況に陥りがちです。
STEP4 出入国在留管理局に申請する
必要書類がそろったら、内定者の住所を管轄する出入国在留管理局または支局に申請します。現在は一部の手続きでオンライン申請も利用可能です(出入国在留管理庁の電子申請システムを確認してください)。
審査期間の目安は1〜2ヶ月ですが、申請時期や管轄局の混雑状況によって前後します。卒業の3ヶ月前には申請を完了しておくと余裕を持って対応できます。進捗状況は内定者に定期的に確認し、追加書類の要求があった場合はすみやかに対応します。
STEP5 許可取得後〜入社手続き
在留資格変更許可通知書を受け取ったら、出入国在留管理局で在留カードの更新手続きを行います。これで空白期間中の合法的な在留が確保されます。
入社後は、速やかに「技術・人文知識・国際業務」など就労系の在留資格への変更申請を行います。特定活動(内定者)の在留期限内に変更手続きを完了させることが重要です。入社後の手続きも担当者を決めて管理する体制を整えておきましょう。
やりがちな失敗パターンと事前防止策は?
パターン1:内定者まかせにして申請が遅れた
「外国人だから入管手続きに慣れているだろう」という思い込みが危険です。日本語学校の卒業生であっても、特定活動(内定者)への切り替えという制度を知らないケースが大半です。
「自分で調べてください」と伝えるだけでは、申請が遅れたり、必要書類の不備で審査が長引いたりします。内定通知と同時に企業側から「在留資格の変更手続きについての案内」を送付することが最善です。チェックリストや必要書類の説明資料を用意しておくと、内定者側の負担も大幅に減ります。
パターン2:卒業から入社まで1ヶ月だから問題ないと油断した
「3月末に卒業して4月1日入社なら空白はほぼない」と考える担当者がいます。しかし理論上は、卒業日の翌日から資格外活動許可は失効しており、アルバイトはおろか、入社前研修や内定者懇親会での業務的な関与さえグレーゾーンになりえます。
期間の長短に関わらず、卒業月と入社月が異なる場合、または卒業後に何らかの業務に関わる可能性があるなら、在留資格の確認と変更手続きの検討は必須です。
パターン3:大学院・専門学校の修了日を見落とした
大学院は秋修了(9月・10月)が多く、企業側が「通常の大学と同じ感覚」で扱うミスが起きています。また、日本語学校の修了は3月と9月の2回に分かれることが多く、企業の入社時期(通常4月)と半年のズレが生じるケースが頻発します。
採用時に「卒業予定月」を確認するだけでなく、「卒業(修了)証明書の発行はいつ可能か」「学校の修了要件はいつ確定するか」まで細かく確認することで、見落としを防げます。
HR担当者向け「入社前在留資格チェックリスト」
以下のチェックリストを採用フローに組み込むことで、法令違反リスクを体系的に防ぐことができます。
- □ 在留資格の種類と有効期限を確認したか
- □ 資格外活動許可の有無を確認したか
- □ 卒業(修了)予定日を確認したか
- □ 入社予定日との空白期間を把握したか
- □ 空白がある場合、特定活動への変更案内を送付したか
- □ 就労内定証明書の発行を完了したか
- □ 申請書類の準備を内定者と共に進めているか
- □ 申請の進捗を確認する担当者を設けているか
- □ 申請許可後の在留カード更新を確認したか
外国人材の採用フローと入社後の定着支援の全体像については外国人材の定着支援完全ガイドもあわせてご覧ください。
採用の完成形に向けて、今から何をすべきか?
採用活動は内定通知で終わりではありません。留学生が安心して入社日を迎えられるよう、在留資格の管理まで責任を持つことが、企業としての採用の完成形です。
特定活動(告示第14号)への切り替えは、企業がコンプライアンスを守りながら内定者を守るための手続きです。手続きは内定者本人が主体となりますが、書類発行・スケジュール管理・申請状況の確認は、企業のHR担当者が伴走することで初めてスムーズに進みます。
「知らなかった」では済まないリスクを回避し、内定者との信頼関係を入社前から築くためにも、今回紹介したチェックリストとSTEP手順を自社の採用フローに組み込んでください。
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